2017年8月23日更新 2017年3月16日公開
新規事業を立ち上げる、ビジネスオーナーになる、なんとロマンに溢れた仕事でしょうか。
事実、新規事業開発には根強い人気があって、新規事業ディレクターのポジションを狙って転職を希望するビジネスマンは大変多いです。
- 大きい組織では分業体制が構築されていて、3年後の自分を想像して絶望してしまった人
- ビジネスオーナーに憧れる人
- 鶏口牛後を地でいく人
- 対岸の見えない荒れた大海原を、がむしゃらに泳ぎたい人
起業するのはリスクが大きいけれども、大企業のリソースを利用すれば最初から規模拡大を視野にノーリスクでチャレンジすることができます。
ノーリスクなのに経験値は莫大に稼げる、とってもおいしい職業なのです。
ノーリスクなのに!(大事なことなので二度言いました)
そんな起業家予備軍としての側面もある新規事業ディレクターへの道を紹介したく、記事にまとめてみました。
私自身も新規事業の立ち上げに携わった身であり、大小含めて3つの新規事業立ち上げ、うち2つをグロースし、うち1つをエグジットした経験がありますので、多少有意な内容にまとめられたかなと思っています。
新規事業ディレクターに求められるスキルや資格
新規事業を立ち上げるにあたって、一体なんのスキルが必要となるのでしょうか?
最大のスキルは「事業センス」です。
事業センスと一言で言いましたが、より具体的に因数分解すると、
- ビジネスの勘所が瞬時に判断できる
- トレンドをいち早く掴んでいる
- 実行力がある
ということです。
ビジネスの勘所が瞬時に判断できる
例えば新しいサービスがローンチされ、アーリーアダプター界隈がそのサービスについて話題にし始めたまさにそのときに、あなたはそのビジネスモデルを一通り聞いて瞬時に勘所がわかるでしょうか?
「勘所」というと分かりにくいと思うので具体的に挙げると、
- なにが成否を分けるポイントなのか
- これまでどうして似たサービスが生まれなかったのか
- なぜその会社だけがローンチ後も生き残れるのか
- さらなるグロースのためのブレイクスルーはなにか
- 今後留意しておかなくてはならない課題(法的なものや商慣習的なものなど)はなにか
などについて話し始められるなら合格でしょう。
トレンドをいち早く掴んでいる
新サービスを生み出さんとしている者ですから、当然常に新しいものはチェックできている必要があります。
仕事としてやっているというよりは、もはやマニア・オタクの域で情報を漁っているくらいでちょうど良いくらいです。
普段のあなたがアーリーマジョリティ以下なら求人サイトをそっと閉じたほうが良さそうです。
記事でウォッチしているのは当たり前、実際に体験して自分の言葉で話せるかが優秀なディレクターかどうかの分水嶺と言えます。
デーティングアプリで異性とランチしてみた、アマゾンダッシュを買って試した、PS VRは発売日に購入した、海外に行ったらAirbnbで宿泊している、などなど、実際に体験することでしか分からない・見えてこないことはたくさんあるものです。
実行力がある
新規事業では課題が山のように積み上がります。
ひとつ乗り越えたら脇目も振らず次の課題に取り組まねばなりません。
大切なのは突破力、つまり結果に結びつく行動をいち早くガンガン実行できるかどうかです。
ここでいう「実行力」とは、考えるより先に動けとか、そういう次元のレベルの話ではありません(重要ですけども)。
たとえばメディア事業を作りたいとなったとき。
たくさんの人に見てもらえる記事をつくって広告やアフィリエイトでマネタイズしよう、そんなごくシンプルな事業です。
どうやって集客しようか、お金もないしやっぱり検索流入だな。
じゃぁ検索結果の上位に表示されるようSEO(検索エンジン最適化)を頑張ろう!
あなたはそうした構想を描きました。
では具体的にどのようなSEOで検索流入を増やすのでしょうか?
一言でSEOと言ったって、サイト構造の最適化、キーワード選定、記事タイトルの最適化、良質な外部リンクの獲得、ソーシャル戦略、内部リンクの最適化、メタタグの改修などなど、めちゃくちゃたくさん考えるべき施策があるわけですが、果たしてすぐ行動に移れるでしょうか?
ここで単純に「SEOだ!」と言うだけなら簡単なのですが、それ以上身体が動けないようでは外部のコンサルと同じです。
具体的アクションには結びつかず結果は出ません。
ディレクターにはそういった、サービス開発を具体的アクションに落とし込める知識・経験が必要なのです。
私はそれを「実行力」と呼んでいます。
スタートアップ界隈で「アイデア自体に価値は無い」と言われる所以はまさにここになります。
あなたがパッと考え付くアイデアは、少なく見積もっても優秀な先達100人がすでに考え尽くしたことです。
でも、彼らにはそれを実行できなかった理由があり、あなたならそれを実行できる理由がなければなりません。
新規事業ディレクターにはその「実行力」が求められるのです。
その他
事業センス以外はぐっと優先度が下がりますが、もちろん最強のジェネラリストであるディレクターには他にも様々な能力が必要です。
事業をひとりで立ち上げるにあたって必要なスキルすべてと言い換えても良いかもしれません。
極論を言えば、構想 → 事業計画作成 → 説明資料の作成 → プレゼン → 資金調達 → サービス・プロダクト作成 → マーケティング → 営業まで、すべて自分でできることが望ましいです。
自分でできるが、全部自分でやっていると時間が掛かるので、成長機会を逃さないためにも人に任せられることは任してしまう、というのが理想の状態です。
必須とまでは言いませんが、獲得しているに越したことのないスキルについてあげると下記のようなものになります。
- ファイナンス(=資金調達)
- プログラミング
- コーディング
- デザイン(UI、UX)
- マーケティング
- 営業
新規事業開発部の求人のチェックポイント5選
求人サイトをのぞいてみると、実に多数の新規事業責任者を求める案件が上がっています。
しかし、本当にそのポジションがあなたの希望を叶えてくれるでしょうか?
失敗しないでしょうか?
それを見極めることは大変重要です。
こんなはずじゃなかったと思っても後の祭り、引き返すことは簡単ではありません。
ということで、実際にディレクターのポジションを探したいと思った場合に、絶対にチェックしておきたい項目をまとめてみました。
その1. 新規事業が立ち上がった実績があるか
まずは何はともあれ、その企業・その部署・そのポジションで過去に新規事業が立ち上がったかどうかは最重要項目です。
どの時期に、どの程度の規模の、どの業種の新サービスが立ち上がったかは確認しておきましょう。
規模については売上高、チームの人員、予算(3年後に10億円の売上計画とか)、その他KPI(Webサービスなら月間UUなど)が指標になります。
WEBサイトで実績をまず確認をして、その後転職エージェントに確認しましょう。
エージェントから企業に照会してもらうのも手です。
判断が難しければ、面接で直接面接官に確認しましょう。
その2. 新規事業の戦略上の立ち位置と温度感
次いで、新規事業が全社戦略の中でどういう意味付けをされているのか、そして新規事業に対する経営陣の温度感はどの程度か、も必須確認事項です。
既存事業のライフサイクルが成熟期に入る前に「中期的な視点で」次の収益の柱を作っていきたいのか、「短期間で」中規模のサービス群を作らないといけないような切羽詰まった状況なのか、ベンチャースピリットを維持する程度に研究開発的に組み込まれているに過ぎないのか、などで温度感がずいぶん異なります。
当然温度感が高い方が経営陣に真剣味がありますので、立ち上げもスムーズにいきやすい面があります。
また、たくさん立ち上げてどれかひとつでも当たれば良いという方針なのか(例:サイバーエージェント、DeNAなど)、確実なものを練りに練って投入する方針なのかでディレクターにとっての立ち上げ難易度が変わってきます。
その3. 新サービスへの要求水準
実績と温度感を把握したならば、次に確認すべきは新規事業に対するリクワイアメント(=要求水準)です。
これも立ち上げ難易度に直に影響するところですので大変重要です。
主なところで以下のものがあります。
- 事業領域に制限はあるか
- 既存事業とのシナジーは必須か
- 達成すべきバジェットはどの程度か
事業領域については、例えばWebサービスに限定するとか、教育関連に限るとか、何でも良いから有望なの立ち上げて!とか、会社によって本当に様々です。
これに似た点として、新規事業に既存事業とのシナジーを求めるか否か、という点があります。
シナジーを求める場合、たとえ事業領域に制限はないと言っていたとしても、その領域が狭まってしまうことは避けられません。
そして最後に、達成すべきバジョットについてです。
「3年後に売上10億円のサービスを作れ」というオーダーなのか、「5年かけて良いから若者のインフラになるようなサービスを作れ。収支は問わない」なのかで難易度がずいぶん異なります。
達成できなければサービスはどうなるか、ポジションはどうなるかなど、ここは出来るだけ根掘り葉掘り聞いておくべきです。
その4. 新規事業立ち上げのフロー
新規事業の立ち上げにあたって、社内のフローは確認しておくべきです。
企画・構想ができただけで立ち上げられるわけではなく、当然ですが社内の承認決議を経なければなりません。
予備審査 → 一次審査(=担当役員審査) → 経営会議 → 正式決定といった流れが一般的ですが、会社によって様々です。
誰に何度承認を取ることになるのか事前に把握しておきましょう。
この申請のフロー次第で立ち上げ難易度がだいぶ違ってくると思って差し支えありません。
当然、承認の少ない方が立ち上げ易く、また尖ったサービスをローンチし易いといえます。
その5. 社内のノウハウ共有
立ち上げに慣れていない会社の場合、貴重な社内ナレッジを共有する場が少ない or 無いという問題点があります。
立ち上げが得意な会社は、立ち上げに成功したときのノウハウだけではなく、なぜ失敗したのかについても共有されているので、メンバーにはどんどん知見が溜まっていきます。
だから強いのです。
サービスの構想がニッチすぎたのか、先行投資の読みが甘かったのか、タイミングが悪かったのか、失敗した理由を突き止めて再発させないことが肝要です。
個人ですべての失敗パターンを経験することは困難ですが、組織的にチャレンジして実験データを蓄積していくことは可能です。
その共有の場が用意されているか、誰もが知り得る状態にオープンになっているかは確認しておきたいところです。
最後に
新規事業ディレクターへの転職についてまとめてきましたが、いかがだったでしょうか。
適性を判断できる明確なスキルや資格が無い分、新規事業ディレクターには様々なスキルが必要となってきます。
毎日が経験したことがないことばかりで大変です。
また、経営判断を下すポジションというものは常に孤独であるということを胸に刻んでおきましょう。
いくらチームとプライベートで仲が良くても、リーダーだけは常に孤独なのです。
なぜなら全員の反対を押し切ってでも無情に意思決定しなければならない場面は必ずありますし、葛藤を相談できずに決めなくてはならないことも多いからです。
しかし最初から立派なディレクターなど存在しません。
誰しもが最初は未経験です。
将来の経営者候補としても、新規事業立ち上げは必ずや良い経験になるでしょう。
あなたも新規事業責任者をめざしてみてはいかがでしょうか?