2017年9月21日更新 2017年9月5日公開
事業責任者待望の本が出ました。
その名もMBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣。
ビジネス書としては異例の大ヒットになっているようです。
私自身、この本がとても勉強になったので、人におすすめしたく書評を書きました。
ビジネスを見る目を養いたかった
私は仕事で経営企画に従事していて、主にM&Aを担当しています。
日々銀行やら投資銀行が案件を持ち込んできますし、プロアクティブに自分たちから興味のある会社にアプローチすることも日常茶飯事です。
そうして調べたり紹介されたりする中で、数百~数千の会社の中から「これはイケてる!」という案件を見つけ出さなければなりません。
限られた時間の中で悠長に調べていては時間が足りないので、どうにかビジネスを見極める目を養えないだろうかと思っていました。
そんなとき書店で本書をパラ読みして、肝となるポイントだけに絞ってチェックすれば「イケてそうか・そうじゃないか」をザッと判断できるようになるのでは?と感じて購入するに至りました。
結論から言うと、まったく間違いじゃなかった!買ってよかった!
経営企画や新規事業担当者は読むべき。あとTMTのバンカーも
本書がどういう人向けかと言うと、まずはやはり事業責任者はドンピシャでしょう。
それから経営企画のように買収・合併・提携をあつかうような方は短い時間で事業を見極める必要があるので、そのカンどころを養うと言う意味で本書はとても役に立ちます。
また、投資銀行のバンカー(特にITセクターのバンカー)にとっても、クライアントのビジネス理解やポートフォリオ分析、それから財務分析に本書が活かせるはずです。
タイトルに惑わされるな!財務諸表を読めるようになる本ではない
本書のタイトルはミスリーディングしやすいものですので最初に断っておきますが、タイトルは「決算を読む習慣」であって「決算を読む方法」ではありません。
つまり、財務諸表分析が主眼ではなく、したがってROEやら自己資本比率やらEBITDAなどは出てきません。
本書は一言で言うと、IT業界のビジネスを理解する際のカンどころを養うための本という位置づけです。
この本はeコマースならYahoo!とAmazon、FintechならSquareとPaypalなどの有名企業を題材にして、IT企業の決算のカンどころが解説されています。
本書で学ぶ、ビジネスの「カンどころ」
じゃぁさっきから言ってるその「カンどころ」って何なんだ?って話ですよね。
それはつまり、
- このビジネスを理解するにはこういう数式を把握しておく必要があるよね
- とりあえずこの数値だけ押さえておけばイケてるサービスかどうかわかるよね
- このサービスは今後まだ伸びる余地あるよ!だって競合他社のこの数字を並べたら判断できるじゃない
というような肌感覚のことです。
本書ではEC業界やFintechといった今流行りの業界を中心に説明してくれています。
数式数式と言いましたが、実際はそんなにたくさん新しい数式が出てくるわけではありません。
また、どれも突拍子のないようなものではなく、ごくごく一般的な数式だったり数字を挙げています。
例えばEC業界だったら、
ネット売上 = 取扱高 x テイクレート
という式が成り立ってて、特にこのテイクレートが重要だよねと。
なのでまずは決算説明資料なんかで、アメリカと日本と中国の主要企業について計算したらそれぞれ何%になるよ、と。
その上で、各社のパーセンテージの違いは何に起因するのか、改善余地があるのかという点を、決算説明書や財務数値、ビジネスモデル、市場環境をもとに見立てをたてていくよ、と。
本書はそんな実践的な内容になっています。
数字・数式を覚えておくとビジネスのカンどころが瞬時に判断できるようになる
シバタさんの「いろんな数字を覚えておこう」というアドバイスはまさに慧眼でした。
- たくさんの企業を対象に、キモとなる数字をみる
- それが良い数字なのかどうかを競合他社と照らしたりして思考する
これはビジネス理解を深める上でとても良い訓練になりました。
そしてシバタさんの言うように、そういう数字はまるっと片っ端から覚えていく方が実はラクなのです。
たとえば新規事業の立ち上げでは、主要な競合他社の数字(たとえばテイクレート)をちょっと知っているだけで、自分の思いついた事業が筋が良いかどうかを瞬時に判断できるようになります。
他にもM&A担当者にとっては毎日多数の案件が持ち込まれますので、パッとキーとなる数字を見て買収した後も伸びるのか、あるいはジリ貧なのかをその場でジャッジできるようになります。
Evernoteにたくさん数字を保存
私は本に線を引いたり付箋を貼ったりするのは嫌いなので、いつもEvernoteに記録しています(あとから要所を振り返られれば良いだけなのでおすすめです)。
短文ならテキストを打ち込みますが、3行を超える分量だったり、グラフや表なら全部カメラで撮って貼り付けて保存です。
で、本書はいつもと比べて3倍くらいの分量を保存しました。
それくらいメモっておきたい箇所が多いのです。
今、まだ頭に入っていない箇所をどんどん潰しているところですが、早くも実務上でその成果を実感しています。
本書に載っていない分野でも、今後調べることがあったら適宜追記でメモっていこうと思っています。
■Amazonページへ→MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣
本書にはこんなことが書いてあるよ
本書を読めばこういうことが分かるようになるよ、ということを挙げてみます。
- Yahoo!ショッピングの「eコマース革命」に学ぶ、ECの収益モデル
- 競合他社の斜め上を行く、Amazonという異端児
- SquareとPayPalに見るスマホ時代の決済・送金ビジネス
- 「AbemaTV」やZOZOTOWNの「ツケ払い」はうまくいくのか?
- Teslaが今後提供する可能性があるFinTechビジネスとは?
- Facebookがスマホで超高収益になった理由は?
- LINEの将来は広告ビジネスにかかっている?
- 動画配信の王者Netflix「5つのすごいポイント」
- 音楽ストリーミングのSpotifyとPandora、未来が明るいのはどっち?
- クックパッド&食べログ、次の伸びしろはどこにある?
- ドコモ、KDDI、ソフトバンクにとって「格安携帯キャリア」は脅威になるのか?
- 楽天のM&A戦略、今後の「減損リスク」はどれほどあるのか?
本書で取り上げているのはこんな企業
【EC】楽天 vs ヤフー vs スタートトゥデイ vs Amazon vs eBay vs アリババ
【個人課金】カカクコム vs クックパッド
【フリーミアム or 有料】Spotify vs Pandora
【動画コンテンツ】Netflix vs サイバーエージェント(AbemaTV)
【決済】PayPal vs Square
【広告】Facebook vs LINE vs Gunosy
【その他】アスクル、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、Tesla、三菱UFJニコス、クレディセゾン、リクルート、LendingClub、日本テレビ、フジテレビ、TBS、Yelp、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、日本通信、IIJ、ARM、Indeed、DeNA、メタップス、じげん
【番外】ところでシバタナオキさんって誰よ?
シバタナオキさんこと柴田尚樹氏は、現在シリコンバレーでモバイル・アプリ検索の最適化ツールを提供しているスタートアップ「SearchMan」の共同創業者 兼 経営者です。
普段はシリコンバレーで暮らしつつ、IT界隈のビジネスを解説する記事を執筆されています。
業界全体の話題から、注目企業の今後の業績見通し、そして注目企業とその競合のビジネスモデルの比較などなど、決算書をもとに数字で解説するスタンスが好評を博しています。
最近はnoteを始められて、記事はそちらでアップされています。
「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」は、そんなnoteの記事を大幅に加筆・再構成して出版されたものになります。
シバタさんの書籍・記事がキレ味鋭いワケ
シバタさんの書籍や記事が大きな反響を得ているのは、ひとえに分析の鋭さ、目の付け所の的確さにあると思います。
もちろん、シバタさんも最初からモリモリ決算書を読み込んでいたわけではなく、過去のキャリアで磨かれたものでした。
シバタさんは2010年にシリコンバレーでスタートアップを立ち上げるまで楽天の最年少執行役員を務めていました。
当時の楽天では毎週全社員に向けて業界トピックスを紹介するコーナーがあり、そのコーナーを担当していたのがシバタさんです。
ありふれた業界情報なら社員は皆知っているし毎週のネタ集めも大変、ということでシバタさんは、
楽天はECから金融、広告などさまざまな事業を運営しているので、競合他社は国内外にたくさんあります。
ライバルの決算を分析して、そこから読み取ることのできるサービス動向や経営戦略を解説すれば、社員の日常業務にも役立つだろう。
と考えて、気になる決算を独自の切り口で分析してアウトプットするうちに洗練されるようになったとか。
氏が長年培った勘所を、書籍で追従できるというのは非常にコスパが良いと感じます。
本を出したのはnoteの販促のため
シバタさんは驚くことに、当初は本を出すことにそれほど前向きではなかったと言います。
本を出すことに、全然興味なかったんです。
もっと言うと、経済的な面から考えると全然ペイしないと思っていた。
noteで「決算が読めるようになるノート」を多くの方に購読いただいているぼくの場合、よほどの大ヒットでないなら、本を出す意味がないですよね。
だから最初はあまり興味がなかったんですけど、一方で、あるコンテンツを広く認知させたいときに、本というフォーマットはまだまだ強い。
それで今回の担当編集者にもはっきり「noteの販促のためなら本を出したいです」というお話をして、出版に至りました。
出典:ネットでマネタイズできる時代に、本を出版した理由|cakes(ケイクス)
これを機に「決算が読めるようになるノート」も併読すべし
本書を読んで読み応えを感じた方、他の分析も読んでみたいと思った方は「決算が読めるようになるノート」の購読もご検討されてはいかがでしょう。
私は本書をきっかけに購読を始めました。(←まんまと氏のマーケ戦略にハマってる、、)
月1,000円で4本~8本の濃密な記事が読めます。
月に数本は無料で読める記事も出ていますので、購読の前にチェックされても良いかもしれません。
公式サイト:決算が読めるようになるノート
最後に
「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」がとても勉強になったので書評を書いてみた件、いかがだったでしょうか。
コーポレートファイナンスやバリュエーションの本を読んでインプットするのも大事ですが、こういう本も読むと知的好奇心が高まりますね。
ベンチャーやネット業界を対象にした分析って、紙媒体ではほとんど出版されてないと思うので貴重だと思います。
興味あればみなさんもポチッとどうぞ。