2018年2月14日更新 2017年5月29日公開
「エクセルワークといえば外資系投資銀行」
そんなビジネス書が書棚に増えるにつれ、エクセルワークに長けたバンカーに注目が集まっています。
迅く、力強く、正確に、それでいて流麗な所作でエクセルを操る姿は、まるでピアノ奏者のよう(真顔)。
しかし、そんなバンカーも入社当初からエクセルが扱えたかというと、当然そんなことはありません。
最初はただの大学生あがりで、「エクセルって時間割を作るくらいにしか使ったことないわ」という状態です笑
そんな状態から、厳しい研修やOJTなどで短期間でソルジャーに仕上げられるのです。
そんな方法あるならウチの会社でも導入したい!
そんな声が聞こえそうですが、ごめんなさい。
他の企業で再現性があるかというと実はそうでもないのです汗
ですが、いちコラムとして面白いかと思いましたので記事にしてみました。
本稿では、入社直後のズブの素人がいっぱしのエクセルマスターになるまでを紹介します。
入社当初
意外に思われるかもしれませんが、投資銀行では入社してからおよそ2ヶ月間は特にエクセルの研修がありません。
その期間は基本的には投資銀行部でOJTを行いながら、いわゆる社会人としての心構えの研修であったり、BloombergやCapital IQといった良く使うツール・端末の研修、それから投資銀行内の様々なセクションのローテーションに充てられています。
この間はOJTで教わりながらエクセルを扱いますが、なにせド素人相手ですのでメンターの教育コストが甚大です。
自分でやったら1分で出来ることを、フィードバックなども含めて1時間以上かけて教えることになります。
そんなわけですので、この期間はエクセルワーク的には大したことが出来ません。
ピアノを弾いているようにしか見えなかった入社時研修時代
入社から2ヵ月後の5月後半か6月初旬頃になると、いよいよ丸々2営業日を使ったエクセル・パワポ研修があります。
講師は元外資バンカーであったり、先輩アソシエイトであったりします。
研修では200ページに及ぶ門外不出のテキストが配られ、それに沿って頭を使ってみっちりと手を動かします。
そのテキストの冒頭の指示で「1. まずはPC本体からマウスを外しましょう」とあり、受講者全員度肝を抜くというあるあるがあります。
研修も終わりに近づくと、これまでの成果を総動員する課題が出てきます。
一般的な棒グラフを作ったら、メモリの向きや最大・最小値の指定、項目の入れ替えといった多数の細かい指示を反映させたり、投資銀行の資料で多用される応用的なグラフ「ウォーターフォール」や「スキャターチャート」、「バブルチャート」などを作成します。
たった2日でもここまで来るとサマになっており、パズルを解くようにグラフを作れるようになります。
研修の最後にはなかなかやっかいな課題、「フットボールチャート」の作成があります。
平均的な受講者でおよそ15分くらいかけて指示通りのチャートを作成します。
ところが、答え合わせとして講師が同じものをわずか20秒ほどで作成するのを目の当たりにして、いかにエクセルマスターへの道が険しいかを思い知ったものです。
なお、バンカーのエクセルワークが速いのは基本的に、
- 考えるまでも無く頭に設計図があること
- ショートカットを多用すること
- その打鍵が速い(ポップアップやモーションすら待たずに押している)
ことがその要因です。
速過ぎて何をしているのか理解できず、傍から見ているとまるで高速でピアノを弾いているようにしか見えなかったのがこの時期でした。
悔しい思いをした海外研修
入社時研修も終わり、いっぱしのバンカー見習いとしてハイハイくらいは出来るようになった新卒は、夏にニューヨークもしくはロンドンの海外研修に行くことになります。
そこでは世界中の同期入社の若者が一堂に会し、5週間にわたって同じ研修を受けます。
ニューヨーク、カナダ、上海、香港、オーストラリア、東京などからおよそ200人が集まります。
私たちは東京支店として参加しますが、外資系ですので当然周りは外国人ばかりで、日本人は我々10人ほどのみという状況です。
研修ではグループワークがあり、6人ほどでグループを作ります。
メンバーは会社が指定します。
日本人1人に対して残りは外国人という、英語が得意でないと絶望する状況に放り込まれます。
グループワークでは、課題企業の企業価値を算出して買収するべきか否かというようなことを約2週間にわたってディスカッションします。
そしてグループワークの最後に、ニューヨーク本社のバンカー(アソシエイト)にプレゼンをして終了になります。
チームでディスカッションし、方針が決まればエクセルを用いて分析や算出をして、最後はパワポでプレゼン資料を作成しました。
その過程で私はあることに気づきました。
それは、彼らはみな、私たち東京支店のメンバーよりもはるかにエクセルワークに習熟していたということです。
アメリカのアイビーリーグ(日本でいう旧帝国大学をさらに優秀にした大学群)卒という超優秀な上に、海外支店では採用までに長期のインターンシップが主流のため、OJTが長いのです。
自分が作ったエクセル資料が彼らの手によって見栄えを修正されるというショッキングな思いもしましたが、出来栄えが断然良くなっていることが一層悔しかったものです。
その強烈な体験があったからこそ、東京に戻ってきてからも一切奢ることなく、グローバルで負けないよう研鑽を積もうと誓いました。
海外研修明けのOJT
海外研修の後半になると、日本の本社から配属先が知らされます。
どのセクターに就くことになるのか、海外で知らされるわけです。
OJTで仕事が振られるわけですが、帰国後の初日から山のように仕事を振られます。
比較的難易度の低い株価チャートの作成やコンプスの更新を叩き込まれるわけです。
そのエクセルなのですが、いずれも難易度が低いとはいえ、最もよく触れるエクセルなだけに非常に多くのノウハウが詰まっています。
エクセルの組み方がある種のオープンソース的なものなので、多くのバンカーが都度バグや非効率な箇所を直して洗練されてきた代物だからです。
逆に言うと、エクセルのプロフェッショナルが組んだファイルなので、ガラス細工のような脆さがあります。
素人が適当にいじると壊れる、ということです。
複雑な関数を読み解き、ドライバーを理解し、フォーマットに最大限の注意を払う。
その流儀をつかむのに1年はかかると思います。
難易度の低いものでこれですから、難易度の高いもの、たとえば財務モデリングなどは自分で作れるようになるまで2年はかかります。(もちろん会計上の難易度もありますが)
財務モデルが組めるようになったらジュニアバンカーとして一人前と認められ、アソシエイトへの扉に手をかけられるというわけです。
最後に
外資系投資銀行で、ド素人の学生がエクセルマスターに育つまでを時系列で開設しましたが、いかがだったでしょうか?
これは個人の見解ですが、成長には挫折がかかせないと思っています。
その点、外資系投資銀行では毎日のように先人や先輩のエクセルを見てレベルの差を思い知らされることになります。
ただ、徐々に自分が作るエクセルのクオリティが上がっていくのを実感できるのと、そのスピードは投資銀行の外の人から見たらとんでもなく早い成長速度だったと思います。
エクセルワークに終わりはありません。
常に進化を求めて、今日も新たなショートカットを覚えましょう。
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