2018年2月14日更新 2017年4月13日公開
外資系投資銀行に入社して、「あぁ、ようやく憧れだったバンカーになれたんだ」と思った瞬間はいくつかあるのですが、その中でも一番感慨深かったのは、初夏にブラックベリー(通称BB)を支給された瞬間でした。
ブラックベリーとは、カナダのブラックベリー社(旧リサーチ・イン・モーション社)が製造する携帯端末の名称で、セキュリティの堅牢さから代々のアメリカ大統領が公務に使用する愛機としても有名です。
一方で、ブラックベリーはバンカーの生活を縛っている悪魔のツールでもあります。着信を知らせるランプが点灯すると、ドキっとします。これはいつまでも慣れることはありません。
例に漏れず外資系投資銀行でトラウマになるほどBBと寝食を共にした筆者が、ブラックベリー事情について激白したいと思います。
Blackberryとは
Blackberryとは通称BBと呼ばれ、欧米を中心としたビジネスマンに広く使われている携帯端末のことです。黒色に物理キーボードが付いた独特のフォルムが特徴的で、見ればすぐにそれとわかる点が人気の秘密です。
世界で175カ国7000万人以上が利用していて、販売台数はなんと1億5千万台以上!日本でも、約4,000社が導入しているといわれています。
【人気の秘密その1】独特のフォルムと物理キーボード
BBはなんといっても物理キーボードが特徴で、スマートフォンのフリック入力が全盛の今なお、物理キーボードを残した設計がされています。
決してフリックに対応できない人を対象としているわけではなく、物理キーボードならではの速打性や打鍵感、ノールックでも入力ができるという良いところを追求したらこうなりました、そんな製品です。
【人気の秘密その2】堅牢なセキュリティ
BBを一躍人気の端末としたのが、そのセキュリティの高さです。
端末で複雑な設定(接続設定やメール設定、プロキシ設定、トンネリング設定など)をしなくても、社内ネットワークへのセキュアなアクセスやメールの送受信、Webの閲覧、メッセンジャーを使った文字メッセージのやりとりがすぐに出来ました。
当時はデフォルトでセキュリティが堅牢な携帯端末はなく、社内のエンジニアチームがガチガチのセキュリティ設定をしてようやく一般社員が使えるという時代でしたので、これは大変革命的で重用されました。
特に政府機関や金融関係など、重大な情報をメールでやり取りするような人たちの間では必須のツールとなっています。投資銀行業界でもBBはいち早く導入され、「ウォール街界隈でBBをもつ人 = バンカー」というアイコンとして親しまれるようになっています。
なお、日本ではBBを使う個人・法人はほとんどいませんので、街中でたまーーーーにBBを使っている人を見かけたら、それは同業者(投資銀行のバンカー)かあるいは単にBBが好きな「かなり奇特な人」と思って差し支えありません笑
ブラックベリーはパスワードの解除が大変
セキュリティという面でいくと、例えばBBでは暗証番号を5回間違うと端末が自動で初期化されてしまいます。
しかもパスワードは英数字記号を組み合わせた15文字以上(大文字小文字も区別)とかを毎回打たないといけないわけです。押し間違いで3回ミスすることは珍しくないのですが、4回目ミスったときはめちゃくちゃ焦ります。
しかも毎月パスワードを変更しなければならず、同じパスワードは半年間使えない念押し具合。パスワードを変えたばかりのときはそれに気づかず入力し続けてしまうこともあるのです、、、
バンカーにとってブラックベリーは『パスポート以上・命未満』
投資銀行のバンカーにとってBBは必携のツールです。
オフィサー(=ボス)から「プレゼン準備の進捗はどうだ」だの「●●の件だが、10ページ目のスライドメッセージを○○に変えておいてくれ」だの「ディールが取れたから今すぐオフィスに来い」だの、時間・場所に関係なく矢のようにメールが飛んできます。もちろん、ボスだけでなくクライアントからも。
そうした連絡があったら即レスしなければならないため、トイレでも風呂場でも合コン中でも、常に肌身離さず持っていなければなりません。新卒のとき、ボスから「頭の下にBBを置いて寝ろ、すぐ起きれるだろ」と言われた程です。
そんなBBですから、万が一にも家に忘れたりした日にはソワソワが止まりません。ましてや海外で置き引きに遭おうものなら、パスポートより先にBBを捜索することになります。「必携」ですから、絶対に失くしてはならないのです。
ブラックベリーを失くすとか、マジでありえない
億が一にもBBを失くしたら?
それは、ボスやクライアントと連絡が取れなくなるという以上に重大な意味が生じます。登場人物は金融庁。そう、インサイダー情報の漏洩です。ブラックベリーを失くしている間に悪意のある第三者がデータを盗み見られたら、金融庁的にはもう世紀末なのです。
そりゃぁそうですよね、そのバンカーとやり取りのあったクライアントからしたら、たまったものじゃありません。バンカーと、まだ世に出ていない機密情報を山のようにやり取りしていますので、「外部流出した」なんてことになったら担当者のクビが飛ぶことになります。しかも、どの機密情報が漏れるかわからないのです。
当然、流出事故を起こした投資銀行はそのクライアントには出入り禁止になりますし、業界から信用を失うことで他の企業からも出禁になる可能性があります。最悪、重大なインサイダー情報が漏洩してM&Aなどがポシャった場合、クライアントから訴訟されることも十分ありえます。そうなれば、バンカーがクビになるどころじゃ済みません。
失くした!と思った場合の対処
でもどれだけ注意をしていてもミスを起こすのが人間です。世の中にはパスポートだって忘れる人はいますし、不慮の事故で命を落とす人もいるわけです。
では、もしもBBを失くした場合は、具体的にどうしなければならないのでしょうか?
まず、失くしたと思ったら探す前に会社のセキュリティ部門に連絡しろ、が鉄則です。セキュリティ部門に連絡があったら直ちに金融庁に通達がなされると同時に、セキュリティ部門がリモートで端末情報を強制消去します。
なお、消去できればまだ不幸中の幸いですが、電池切れの場合はリモートで情報を消去できませんので、それは最悪の事態です。また、端末を失ってから24時間以上金融庁に連絡をしなかった場合も最悪です。
その場合は行政処分に加えて、そのバンカーが一週間以内に連絡を取った人とその内容を、全て金融庁に報告しなければなりません。
なぜならば金融庁は、どういった機密情報が漏れる可能性があるのかすべて把握しておかなければならないからです。
つまり、悪意を持って拾った携帯から情報を入手した誰かが、その機密情報を使って株で大儲けするといったようなことが十分ありうるため、株式市場で不自然な取引がなされないか、違和感のある商取引がないかなどを厳重に警戒する必要があるのです。
ただ、バンカーは日に百件、案件中ですと数百件近いメールをやり取りしています。その全てを思い出して報告しなければならないとなると、これは途方もない作業です。
したがって、この事態に陥ったバンカーは業務どころではないので、二徹くらいして報告書や始末書を作りつつ、クライアントへの謝罪回りをしなければならないのです。
最後に
ブラックベリーの恐怖、いかがだったでしょうか?
バンカーといえばBBを片手に颯爽とビジネス街を歩くイメージが強いのですが、同時に、その裏ではBBに恐怖するというバンカーのホンネを書いてきました。
もしもそんなBBに興味が出た人がいたらプライベートフォンとして持ってみるのも良いかもしれませんね。
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