2018年2月14日更新 2017年3月1日公開
2008年にサブプライムショックで金融市場に激震が走りました。銀行や証券など、金融機関の大再編が起こったことでも記憶に新しいと思います。
そんななか、日本のガリバー、野村證券が米名門投資銀行のリーマン・ブラザーズを買収するという報道が世界を駆け巡りました。まさに震源地に飛び込むかのような野村證券の姿は果たしてグローバル金融を救済する英雄か、はたまた蛮勇か。
野村證券のその後のPMI(買収後の統合)を見ながら、リーマン・ブラザーズは成功したのか否かについて解説していきたいと思います。
なお、野村證券のあれこれについてはこちらの記事が詳しいので併せてどうぞ。
名門投資銀行の買収
野村ホールディングスがリーマン・ブラザーズの主要部門を買収すると発表しました。
リーマン・ブラザーズといえば米国での名門投資銀行ですが、そのアグレッシブな取引姿勢が仇となってサブプライムショックに沈むことになりました。リーマン・ブラザーズの倒産が金融危機の引き金になったことはご承知の通りです。
リーマン・ブラザーズの買収では、不動産や有価証券などの資産・負債は引き継がず、投資銀行の最大の財産である人材に絞った買収でした。
欧州・中東部門に至ってはわずか2ドルという備忘価格で、そのネットワークを丸々手に入れたことになります。
リーマン・ブラザーズ買収の真意
それまで野村は日系証券としては存在感を示していたものの、欧米勢に比べて見劣りしていたことも事実。野村證券はリーマン・ブラザーズの買収を機に、グローバルプレーヤーとなる賭けに打って出たというわけです。
当時は三菱東京UFJ銀行も、リーマンショックで大打撃を受けたモルガン・スタンレーに90億ドルもの巨額出資をしたこともあり、「ジャパンマネーの復権」とも叫ばれました。
さらに2008年10月、野村がリーマンのバックオフィス業務などを運営するインド拠点を買収し、先の買収と合わせて約8,000人の従業員を引き取る形になりました。
このことでPMI、とりわけ人材面の統合に注目が集まっていました。8,000人ものグローバル人材を野村證券の人材とどう融合させられるかが課題と見られていました。
買収後数年は好調さをアピール
買収から3ヶ月の2009年1月15日、当時野村HD社長の渡部賢一氏は「投資銀行部門ではリーマン統合後に中国石油化工のカナダ企業への買収への助言業務や、タタ・テレサービシズの通信インフラ事業再編に助言業務を受注。
日本を除くアジア市場のM&A助言金額でも欧米勢を抜き首位であり、投資銀行部門ではすでに成果が出始めている」と手応えと成果をアピール。
当初から心配されたリーマンとの統合についても、「継承作業は予定通りに進んでいる。市場部門の最大のヤマはシステム統合だ。旧リーマンが持っていた株式売買注文の高速自動処理システムを稼働できる見込みで、投資家に新たなサービスを提供できる」とPMIの好調に自信を見せました。
また、2010年4月、欧州地域の最高経営責任者(CEO)の後任として、リーマン・ブラザーズ出身のタルン・ジョットワニ氏を採用したことを発表。旧リーマン人材への重要ポストの付与は、海外を含めて野村のグローバル化を印象付けました。
こうして野村がグローバルでの知名度を上げたことで、かつての野村だったら来てくれなかったような優秀な外国人が報酬の上乗せなしで採用できるようになりました。報道によると、リーマン買収後に海外を中心に約2,000人を採用したといわれています。
日本にグローバル水準の給与体系を輸入
国内の新卒採用でもエポックメイキングな変化がありました。
野村證券がリーマン・ブラザーズの給与体系に寄せて、グローバル水準の報酬体系を導入したことです。初任給は月額54万2千円という高額の報酬体系でした。
これによって日系投資銀行の給与体系の基礎ができたといわれています。今でこそ珍しくない報酬体系ですが、当時は異業種の人たち含めて驚きを持って迎えられました。
一方で、旧リーマン社員は契約が切れた(保証していたボーナス支払いが完了した)タイミングで大量離職していきました。このことは、野村證券がまだグローバルでのグリップが弱かったということの現れであるといえます。
海外の不調をトップが認める
2012年7月、インサイダー問題で揺れた野村はグループ最高経営責任者(CEO)を永井氏に交代。海外部門は依然、赤字が続いていました。
永井CEOは「当初期待した利益面での成果が必ずしも出ていない。リーマン買収は失敗だったのかというと、現状この業績で成功だとは言えない。ただ、極東の地場証券だといずれじり貧になる。海外に出るという判断は間違ってなかったので、グローバル戦略の旗は降ろさない」と語っていますが、外資系投資銀行を飲み込んだ買収は消化不良感が濃厚になってきました。
リーマンブラザーズ買収のその後
そして2017年現在、野村證券の海外部門は6期連続赤字が続いており、全体利益に対しても決して少なくないネガティブインパクトを与えています。
これは、三菱東京UFJ銀行が買収したモルガン・スタンレーは力強い復調を見せているのとは対極的です。
野村證券が失敗した最大の理由は何だったのでしょうか?それは「欧州を主戦場にしたこと」です。米景気と比べて欧州市場は未だにサブプライムの影響が残っており、しかも小国連合なので成長エンジンに欠けるというわけです。
また、もちろん高い人件費も原因のひとつです。
タレントバイに絞った買収でしたが、ご承知の通り「資産は人のみ」とされる投資銀行です、巨額の人件費が大きく足を引っ張って復活が遠のいていることは間違いありません。
とくにリーマン・ブラザーズは給与水準が高止まりしていたときの契約を引きずっており、一人当たり3,300万円に上りました。
しかも野村證券には欧州以外に主だった海外部門がないため、人材の調整が思うように進まなかったことも想定外だったことでしょう。
2016年からは本格的に欧州で1,000人規模のリストラに着手し、コストダウンによって再起を図る方針を発表しています。
最後に
野村證券によるリーマン・ブラザーズ買収について解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
未だに海外部門が足を引っ張っており、控えめに言ってもリーマン・ブラザーズ買収は成功とは言えないでしょう。今なお復活までの道のりに苦慮していることはお分かりいただけたと思います。
そうしたなかで、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどのファーストティアとの競争に割って入り、グローバルトップティアのインベストメントバンクになるという悲願に向けた戦略は、残念ながらまだ見えていません。
今後の海外再建プランに世界中から注目が集まっています。
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